
海外に移住すると、国民年金はどうなる・・・?
一般的に海外に移住すると、日本の住民票を抜く必要があります。
住民票を抜くと、国民年金に加入できません。
その間は、カラ期間として受給資格期間に含まれますが、年金額には反映されません。
イタリア在住中は国民年金に加入せず、イタリアの年金制度に加入した実体験を基に、海外移住者が国民年金に関して選べる3つの選択枝と社会保障協定、自らの反省をふまえて感じることなどをまとめました。
海外移住すると日本の国民年金はどうなる?
国民年金の受給に必要な期間は10年
国民年金(基礎年金)は20歳以上60歳未満の全ての国民が加入します。
年金額は保険料を納付した期間に応じて決まります。
40年間保険料を納付すると、満額受け取れます。
年金を受け取るために必要な期間はもともと25年でしたが、2017年8月1日から10年に短縮されました。
年金を受給するために必要な『資格期間』は、
- 国民年金の保険料を納めた期間や、免除された期間
- 会社員や公務員の期間(船員保険を含む厚生年金保険や共済組合等の加入期間)
- 年金制度に加入していなくても資格期間に加えることができる期間(カラ期間)
を合計して算出。
この資格期間が10年(120月)以上あると、年金を受け取ることができます。
ただ、10年間の納付では、年金額は満額の4分の1くらいになります。
海外転出について
一般的に1年以上海外に居住する場合は、住民票がある自治体に『転出届』を提出し、住民票を抜く必要があります。
住民票を抜くと、住民登録が抹消され、税金や国民年金保険料、国民健康保険料の納付義務がなくなります。
つまり、海外に転出する届出をすると、国民年金の加入資格がなくなるため、国民年金保険料を支払う義務はなくなり、将来の年金受給額が減ります。
健康保険には加入できなくなります。
帰国して転入手続きをするまでの期間は、カラ期間として受給資格期間に含まれますが年金額には反映されません。
役所に本人確認書類を持って、転出届を提出すれば手続きできます。
海外移住する場合の国民年金に関する3つの選択枝
- 国民年金に加入しない
- 国民年金に任意加入する
- 国民年金の強制加入を継続する
国民年金に加入しない
自分の意思で海外移住をする場合、仕事を辞めて渡航するケースが多いと思います。
つまり、企業に在籍して海外赴任する場合を除いて、厚生年金から国民年金の加入者になっているので、何も手続きをしないと、移住後も保険料を納める義務があります。
一般的には、1年以上海外に居住する場合は、住民票がある自治体に海外に転出する転出届を提出し、住民票を抜く必要があります。
国民年金の加入者が転出届を提出すると、日本国内に住所がなくなるため、国民年金の加入資格がなくなります。
海外に居住していて国民年金へ任意加入しなかった期間は、受給資格期間には算入されますが年金額には反映されません。
つまり、保険料を納めない分、将来受け取れる年金額が減ります。
国民年金に任意加入する
海外転出届を提出すると、国民年金の加入資格がなくなりますが、日本国籍の人は、申し出をすることで、20歳以上65歳未満の間、国民年金に任意加入することができます。
保険料を納めるには、日本国内の預貯金口座から引き落とす方法と、国内にいる親族等の協力者が代わりに納める方法があります。
これから海外に転出する人はもちろん、すでに海外に居住している人も手続きをすれば任意加入できます。
国民年金に任意加入を希望する場合は、転出届を提出後、本人確認書類、基礎年金番号のわかるもの(基礎年金番号通知書、年金手帳など)を持参し、役所で手続きします。
任意加入は、申し出をした日からの適用になります。
任意加入し、国民年金保険料を納めている期間に初診日がある病気やけがで障害が残ったときには、障害基礎年金を請求できる場合もあります。
任意加入被保険者が帰国して、日本国内に住民登録すると、国民年金の強制加入被保険者となります。
なお、一時帰国などで短期間だけ国内に住民登録する場合も、その期間は強制加入被保険者となります。
強制加入には手続きが必要なので、役所に転入届を提出後、国民年金加入の手続きをします。

国民年金の強制加入を継続する
国内に住民票を残して、国民年金の強制加入を継続することもできます。
海外在住者は日本の住民票を抜いているのが普通だと思っていましたが、実際には住民票を残している人は少なくありません。
イタリア在住時の友人知人も、ご家族の意向や事情など理由はさまざまですが、3、4人に1人くらいの割合で日本に住民票を残して、国民年金や健康保険に加入していました。
住民税や国民年金、国民健康保険の保険料を支払う義務が生じるため、誰もが選べる選択枝ではありませんが、それが可能な環境なら検討する価値はあります。
老後の年金額が減ることなく、一時帰国中に健康保険を使って健康診断や医療機関を受診できるなど、万全の備えができます。
イタリア在住中の年金について
イタリアの年金制度
私自身はイタリアで働き始めて、イタリアの年金制度に強制加入。
イタリアの年金制度は、 Istituto Nazionale della Previdenza Sociale (イスティトゥート・ナツィオナーレ・デッラ・プレヴィデンツァ・ソチャーレ)、略してINPS(インプス)と言います。
イタリアで働く人は被雇用者、雇用者、自営業者に関わらず、INPSに加入を義務付けられています。
イタリアで滞在許可証を所持し、正規で働く外国人は、年金制度についてイタリア人と同様の義務と権利を持ちます。
受給資格期間は20年以上。
日本の年金制度と異なり、無職の場合はINPSに非加入となり、年金保険料の支払い義務はありませんが、年金の受給資格もありません。
社会保障協定とは?
海外で働く場合は、働いている国の社会保障制度に加入する必要があり、多くの人は、日本と海外の2ヶ国以上で年金保険料を納めています。
特に、日本から海外に派遣された企業駐在員等については、日本の社会保障制度との保険料と二重に負担しなければならない場合が生じています。
また、日本や海外の年金を受け取るためには、一定期間その国の年金に加入しなければならない場合があるため、その国で負担した年金保険料がいわゆる掛け捨てになることがあります。
そのため、社会保障協定は二重加入の防止と年金加入期間の通算を目的として締結します。
二重加入の防止とは、保険料の二重負担を防止するために加入するべき制度を二国間で調整することです。
また、年金受給資格を確保するために、両国の年金制度への加入期間を通算することにより、年金受給のために必要とされる加入期間の要件を満たしやすくします。
日本は23ヶ国と社会保障協定を締結

2025年1月14日現在、日本は23ヶ国との間で協定が発効済です。
日本と社会保障協定を結んでいる国で働く場合は、年金加入期間の通算ができることがあります。
イギリス、韓国、中国、イタリアとの協定については、保険料の二重負担防止のみ。
国によって制度が違うので、国別に確認が必要です。
日本とイタリア間の年金制度協定
日本とイタリアは、2009年に社会保障協定に署名したものの、長い間進展がありませんでしたが、ようやく2024年4月1日に社会保障協定が発効。
ただし、保険料の二重負担防止のみ。
保険期間の通算はありません。
私自身は、イタリア在住中は日本の国民年金に加入せず、INPSの加入期間の要件には満たないので、掛け捨てになっています。
社会保障協定が発効されたことを知り、通算できるかも!と期待したのもつかの間、二重負担防止のみなので、今のところ状況は変わらないようです。
今後、保険期間の通算についても協定が発効されることを願うばかりです。
国民年金について学んで、将来の備えを!
私の場合、イタリア留学前に役所に問い合わせると、住民票を抜く抜かないは最終的に本人が判断すれば良いと説明を受けました。
留学中は収入がないため、社会保険料を支払う余裕はないと判断して、転出届を提出、住民票を抜きました。
その後も国民年金に加入しないで、イタリアでINPSに加入していましたが、受給資格期間を満たさずに帰国。
国民年金の受給資格期間は満たしているものの、保険料を納付した期間が短いため、現状では将来受け取れる年金額は雀の涙。
イタリアに移住する際は、現地の生活ばかりに気が行って、年金制度にまで頭が回らず、目先のことしか考えていませんでした。
本来は安易に住民票を抜かずに、社会保証制度について学んで、どのような影響があるのかしっかり認識した上で、判断すべきだったのです。
取り返しの付かない反省点です。
後悔しても、後から取り戻せないこともあります。
現に、カラ期間の分の保険料は追納できません。
もし今の自分だったら、確実にイタリア在住中も国民年金に任意加入していたと思います。
なので、渡航前はもちろん、海外生活の節目など、まだ間に合ううちに、国民年金についてしっかり学んで、将来を見据えた選択をするべきだと思います。
国民年金制度は時代と共に変わっていくので、定期的に知識をアップデイトして、自分自身が今できる最善策を考え、将来のためにしっかり備えることが大切です。