ペコリーノは羊のミルクから作られるフィレンツェのいつものチーズ

羊のミルクから作られるイタリアのチーズ、ペコリーノ。
ペコリーノは日本ではあまり馴染みがありませんが、イタリアでは、特に中部から南部で日常的に食卓に上るチーズです。
テーブルチーズとしてそのまま食べるだけでなく、パスタの上にすりおろして食べるタイプもあります。
イタリア中部や南部のさまざまな地域でペコリーノが作られ、それぞれ熟成期間や風味に違いがあります。
イタリアでペコリーノを愛食した経験を基に、ペコリーノの基本情報やEU諸国のD.O.P. の概要、D.O.P. のうちペコリーノ・ロマーノ、ペコリーノ・トスカーノ、ペコリーノ・サルドについて、指定地域や種類、熟成期間、特徴、違いなどをまとめました。
イタリア原産、羊のミルクから作られるペコリーノ
Pecorino ペコリーノとは?

ペコリーノは、イタリア原産の羊のミルクを原料としたチーズの総称です。
イタリア語で、羊は pecora ペーコラ。
羊のミルクから作られるチーズは、pecora の語尾に縮小辞 ino が付いた、pecorino という名前で親しまれています。
日本では、ペコリーノチーズと呼ばれますが、イタリアではペコリーノだけで、チーズのことを指します。
日本でチーズと言えば、牛乳から作られるイメージが強いですが、ヨーロッパの羊乳チーズは、ポピュラーなうえに種類も豊富。
羊は牛よりも飼育の歴史が古く、紀元前1万年頃から人間に飼育されています。
栄養価が高く、良質なたんぱく質が摂れるため、古代から日常的に食べられ、愛されているチーズなのです。
中部から南部イタリアではペコリーノが主流
イタリアチーズと言えば、パルミジャーノ・レッジャーノやゴルゴンゾーラ、モッツァレッラなど、牛のミルクを原料にしたチーズが有名。
一方、羊のミルクを原料にしたペコリーノは知名度は劣るとはいえ、イタリア国内では広い地域で作られています。
一般的に、北イタリアでは牛乳を原料にしたチーズが多く、中部から南部ではペコリーノが作られています。
一口にペコリーノと言っても、地域によって、さまざまな種類のペコリーノがあります。
ペコリーノの種類
イタリア中部から南部を中心に、多種多様なペコリーノが作られています。
D.O.P. (原産地名称保護)認証を受けたペコリーノだけでも、8種類あります。
日本では、ペコリーノ・ロマーノ以外はあまり馴染みがないかもしれませんが、イタリア国内では日常的に食卓に上がるチーズです。
なかでも、イタリアでよく知られているのは、
- pecorino romano (ペコリーノ・ロマーノ)
- pecorino toscano (ペコリーノ・トスカーノ)
- pecorino sardo (ペコリーノ・サルド)
それぞれの地域で日常的に親しまれているだけでなく、特産品としても、人気のあるチーズばかりです。
さらに、粒こしょうを加えたpecorino pepato (ペコリーノ・ペパート)やトリュフを混ぜ込んだ pecorino al tartufo (ペコリーノ・アル・タルトゥフォ)、唐辛子を練り込んだ pecorino peperoncino (ペコリーノ・ペペロンチーノ)など、他の食材を合わせた、さまざまなペコリーノが楽しめます。
D.O.P. とは?

イタリアの食材に表示されているD.O.P. マーク。
D.O.P.とは、Denominazione di Origine Protetta(原産地名称保護)の略表記です。
古い歴史をもつヨーロッパ各地には、それぞれの地域の食文化を象徴する食品が数多くあります。
D.O.P. はこうした食品の品質管理と生産者の保護のため、指定された地域で生産された食品のうち、基準を満たすものにのみ特定原産地の名称を冠して販売を許可するヨーロッパのEU法が規定している制度です。
簡単に説明すると、ワイン、チーズ、生ハムなど昔から作られている伝統的な食材に対し、地域の特産品であることを証明するマークです。
有名どころで例を挙げると、
- Prosciutto di Parma D.O.P. (プロシュット・ディ・パルマ) パルマ産生ハム
- Mozzarella di bufala campana D.O.P. (モッツァレッラ・ディ・ブーファラ・カンパーナ) カンパーニア産水牛のモッツァレッラ
- Olio extravergine di oliva Terre di Siena D.O.P. (オーリオ・エキストラヴェルジネ・ディ・オリーヴァ・テッレ・ディ・シエナ) シエナ産エキストラ・ヴァージン・オリーブオイル
日本にも、地域と結びついた食材が豊富にありますが、EU諸国では、産地や製法などが法律によって明確に規定されているのです。
つまり、D.O.P. マークの付いた食品は厳しい基準をクリアした、EUのお墨付きなのです。
ペコリーノ・ロマーノ D.O.P.
ローマ産ペコリーノの特徴
ペコリーノ・ロマーノは、古代ローマ時代から作られていたと言われる、歴史のある伝統的な羊乳のチーズです。
イタリア語で、romano (ロマーノ)はローマの形容詞。
このチーズがもともとローマ近郊で作られていたことから名付けられました。
ペコリーノ・ロマーノの指定地域はラツィオ州だけでなく、意外にも海を隔てたサルデーニャ州も含まれます。
ちなみに、ローマはラツィオ州の州都。
ペコリーノ・ロマーノの外見は白色で円柱形の硬質チーズ。
羊のミルクから作られたチーズ独特の風味と旨味があります。
ふんわり甘い香りがしますが、そのまま食べると、塩味が強く感じられます。
もともと、長期間保存するために作られていたため、塩分が強めなのが特徴なのです。
テーブルチーズとすりおろし用に分類
ペコリーノ・ロマーノは用途によって、2種類に分類されます。
- テーブルチーズ
- すりおろし用チーズ
法定熟成期間が異なり、テーブルチーズ用は最短で5ヶ月、すりおろし用は8ヶ月以上と規定されています。
ペコリーノ・ロマーノはそのまま食べると塩味が強いので、パスタなどにすりおろして使うことが多いです。
例えば、ローマ名物 spaghetti alla carbonara (カルボナーラのスパゲッティ)には、このペコリーノ・ロマーノが欠かせません!
ペコリーノ・トスカーノ D.O.P.

トスカーナ産ペコリーノの特徴
ペコリーノ・トスカーノは、主にトスカーナ州で作られる羊乳のチーズです。
その歴史は長く、紀元前のエトルリア時代にまで遡ります。
イタリア語で、toscano (トスカーノ)はトスカーナ州の形容詞。
ちなみに、トスカーナ州の州都はフィレンツェです。
同じペコリーノでも、トスカーナ地方を中心に作られるペコリーノ・トスカーノは、ペコリーノ・ロマーノとは違って、それほど塩気は強くなく、マイルドな味わいです。
羊乳本来のまろやかでコクのある風味と柔らかい食感が特徴で、テーブルチーズとして、食事やおやつ、ワインのおつまみなど、さまざまなシーンで楽しまれます。
フレスコとスタジョナートに分類
ペコリーノ・トスカーノは、熟成期間によって、2種類に分類されます。
| イタリア語 | 読み | 熟成期間 |
|---|---|---|
| fresco | フレスコ | 20日以上 |
| stagionato | スタジョナート | 120日~1年 |
Pecorino Toscano D.O.P. Fresco
イタリア語の fresco は英語の fresh と同義の形容詞です。
法定熟成期間は20日以上ですが、実際には、45~60日、つまり2ヶ月弱熟成されることが多いです。
外皮は黄色くツルツルとして、中は白っぽい薄い黄色、繊細なバターや干し草の香りに、ほのかに甘味のあるフレッシュな味わいです。
Pecorino Toscano D.O.P. Stagionato
イタリア語で stagionato は熟成されたという意味の形容詞です。
法定熟成期間は4ヶ月~1年。
外皮は黄色、中は薄い黄色で、フレスコよりも干し草やドライフルーツの香りが強く感じられます。
羊のミルク本来のまろやかで優しい風味に、熟成による深みが増します。
3月のミルクから作られる特別なペコリーノ
トスカーナには、主に3月の羊乳から作られる歴史あるセミハードからハードタイプのペコリーノがあります。
15世紀から知られ、pecorino marzolino (ペコリーノ・マルツォリーノ)と呼ばれます。
伊語で3月は Marzo (マルツォ)なので、3月のチーズというそのままの名称です。
3月に羊が牧草を食べ始め、そのミルクで作られるチーズが一番おいしいと言われます。
その貴重なミルクで作られる期間限定の特別なチーズなのです。
優しく甘い香りと、濃厚でバターのようなコクが特徴です。
生の空豆と一緒に食べるのがトスカーナ流。
春の風物詩とも言われます。
私がフィレンツェで暮らしていた頃は、マルツォリーノが店頭に並ぶのが待ち遠しく、毎年春になると、ワインとチーズと空豆を楽しみました。
シンプルな組み合わせなのですが、絶妙に合うのです。
ペコリーノ・サルド D.O.P.
サルデーニャ産ペコリーノの特徴
イタリア語で、sardo (サルド)は、sardegna (サルデーニャ)の形容詞です。
ペコリーノ・サルドは、サルデーニャ島(州)で作られるペコリーノで、強い風味が特徴です。
ペコリーノ・サルドはペコリーノ・ロマーノが持つ風味と塩味をより豊かにしたチーズです。
サルデーニャ州はペコリーノ・ロマーノ D.O.P. の指定地域でもあるのですが、サルデーニャ島で作られるペコリーノ・サルドは、ペコリーノ・ロマーノやペコリーノ・トスカーノとは、かなり異なった食感です。
フィレンツェで暮らし始めた頃、ルームメイトの親友がサルデーニャ出身だったので、時々ペコリーノ・サルドをもらって食べる機会がありました。
普段ペコリーノ・トスカーナを食べ慣れていると、ペコリーノ・サルドは香りも味も格段に強く、インパクトがあります。
同じペコリーノなのに、作られる地域によってこんなにも違うのだと強烈に印象に残っています。
ドルチェとマトゥーロに分類
ペコリーノ・サルドは、熟成期間によって、2種類に分類されます。
| イタリア語 | 読み | 熟成期間 |
|---|---|---|
| dolce | ドルチェ | 20~60日 |
| maturo | マトゥーロ | 2ヶ月以上 |
Pecorino Sardo D.O.P. Dolce
ペコリーノ・サルド・ドルチェには、グリーンのラベルが付いています。
ドルチェはよく知られている伊語で、甘いという意味。
20日~2ヶ月間熟成され、チーズの外皮は薄く、白色又は麦わら色です。
中身は白色で、柔らかく、羊のミルクのほんのり甘く、優しい風味が味わえます。
Pecorino Sardo D.O.P. Maturo
ペコリーノ・サルド・マトゥーロは、ブルーのラベルが目印です。
マトゥーロは熟成したという意味の形容詞で、ペコリーノ・トスカーノの『スタジョナート』と同義です。
2ヶ月以上の熟成期間を経て、チーズの外皮は厚くなり、熟成が進むと褐色を帯びます。
中身は白色で、熟成が進むと麦わら色になり、味にパンチが加わり、スパイシーな風味になります。
そして、すりおろしたペコリーノ・サルド・マトゥーロも Pecorino Sardo Maturo D.O.P. gratuggiato の名称で、D.O.P. 認証されています。
3種類のペコリーノの違い
羊のチーズから作られるペコリーノは、産地によって熟成期間や風味に違いがあることがわかりました。
イタリアに住んでいると、普段は地元のチーズを食べますが、旅行などでご当地チーズとワインを合わせて味わうのも楽しみの一つです。
なので、私の場合は、ペコリーノ・トスカーノに愛着があります。
3種類のペコリーノ(ペコリーノ・ロマーノ、ペコリーノ・トスカーノ、ペコリーノ・サルド)の違いをざっくり比較すると、
| ロマーノ | トスカーノ | サルド | |
|---|---|---|---|
| 指定地域 | ラツィオ州 サルデーニャ、トスカーナの一部地域 | トスカーナ州 ラツィオ、ウンブリアの一部地域 | サルデーニャ州 |
| タイプ | ハード | ソフト~ハード | ソフト~ハード |
| 種類 | テーブルチーズ すりおろし用 | フレスコ スタジョナート | ドルチェ マトゥーロ |
| 熟成期間 | 5ヶ月以上 8ヶ月以上 | 20日以上 120日~1年 | 20~60日 2ヶ月以上 |
| 風味 | 塩味が強い | マイルド | 風味が強い |
この3種類の中では、ペコリーノ・サルドが一番個性が強いといえます。
ただ、ペコリーノ・サルドは他の2つに比べて、イタリア国外での知名度は低いです。
ペコリーノのある日常
日本人にはペコリーノは馴染みが薄いので、癖がありそうとか、臭いがきつそうとか、敬遠されがちですが、全くそんなことはありません!
一般的にペコリーノは香りも味も嫌みがなく、食べやすいチーズです。
イタリア中部から南部では、それぞれの地域のペコリーノが作られていて、産地によって風味や食べ方にも違いがあります。
フィレンツェでは、ペコリーノ・トスカーノを常備して、テーブルチーズとして日常的に食べます。
今回紹介しませんでしたが、シチリアの友達の家に遊びに行くと、ペコリーノ・シチリアーノが食卓に上がります。
パスタにすりおろして食べることも。
日本では、ペコリーノ・ロマーノはたまに見かけますが、それ以外のペコリーノはなかなか手に入らないチーズです。
日常的に食べていたペコリーノ・トスカーノは恋しくなり、フィレンツェに遊びに行ったら、食べたいものリストにまたひとつ加わりました。

