国が違えば、医療制度は異なります。
イタリアの医療には、国民皆保険制度による保険診療と保険外診療(自費診療)があります。
イタリアの保険医療制度のベースは国民健康保険サービス (SSN) 。
イタリア国民は SSN の加入を義務付けられていて、在留外国人も加入すれば、公立病院等で保険診療を受けられます。
イタリアの保険医療制度について、実体験を基に、在留外国人の SSN の加入可否や内容、かかりつけ医の役割、滞在中に病気やケガをした時の流れなどをまとめました。
イタリアの医療制度
保険診療と自費診療の併用
イタリアの医療には、国民皆保険制度による保険診療と保険外診療(自費診療)があります。
国民健康保険加入者は保険診療を行う公立病院等と自費診療を行う私立病院やプライベートクリニック等を選択することができます。
在留外国人も国民健康保険に加入すれば、公立病院等で保険診療を受けられます。
ただ、公的医療機関では一般的にイタリア語でのコミュニケーションが必要。
一方、自費診療を行う私立病院は予約制で、英語を話す医療スタッフが配置されていることも多く、医療環境も整っていますが、軽症から中等症までの疾患への対応に限られます。
また、一般的に自費診療による医療費は高額です。
イタリアの国民健康保険サービス(SSN)とは?
イタリアの保険医療制度は、国民健康保険サービスを基本としています。
全国民が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、必要な時に適切な料金で提供する地域主体の医療サービスです。
国民健康保険サービスはイタリア語で、 Servizio Sanitario Nazionale (セルヴィッツィオ・サニタリオ・ナツィオナーレ)、略して SSN。
イタリア国民は SSN の加入を義務付けられています。
日本と同じく国民皆保険制度ですが、SSN の内容は大きく異なります。
在留外国人の SSN の加入について
在留外国人は SSN に加入できる?
EU圏外の国籍の外国人は滞在理由によって、SSN への加入が義務の場合と任意の場合があります。
就労用滞在許可証を所持している外国人は SSNの加入を義務付けられています。
家族用滞在許可証で滞在する配偶者や子供は、扶養家族としてSSNに加入。
就学用滞在許可証などを所持して、90日以上イタリアに滞在する外国人は SSN に任意で加入することができます。
一方、イタリアでの滞在期間が90日未満の短期滞在の場合は、商用、観光にかかわらず、加入できません。
在イタリア日本大使館のウェブサイトの国民健康保健サービス(SSN)加入方法のお知らせに、 SSN の加入対象者の条件や任意加入の手続き等詳細が日本語で記されています。
SSN 加入手続き
SSN の加入手続きは、住民票または滞在許可証申請に登録した居住地の地域保健所の窓口で行います。
地域保健所はイタリア語で、 Azienda Sanitaria Locale (アツィエンダ・サニタリア・ロカーレ)、略して ASL。
日本の医療保険制度と違い、 SSN はホームドクター制(かかりつけ医制度)を導入しているため、登録時に ASL と契約している一般医または小児科医(0歳~14歳)のリストから、かかりつけ医を選びます。
かかりつけ医は伊語で、 medico di base (メディコ・ディ・バーゼ)、または medico di famiglia (メディコ・ディ・ファミリア)と呼ばれています。
手続が完了すると、その場で仮の保険証、 tessera sanitaria (テッセラ・サニタリア)が発行されます。
保険証の有効期限は原則として滞在許可証、 permesso di soggiorno (ペルメッソ・ディ・ソッジョルノ)の有効期限に準じます。
正式な保険証は登録した住所に後日郵送で届きます。
SSN のかかりつけ医とは?
SSN に加入すると、イタリア人と同じように公的医療を受けることができます。
SSN 加入時に登録したかかりつけ医は、救急の場合を除いて、公的医療を受診する際に最初に診察を受ける医師です。
つまり、イタリアで病気や怪我をした場合、まずは自分が登録したかかりつけ医を受診する必要があります。
かかりつけ医による診察料は SSNより支払われるため、患者は無料で受診できます。
かかりつけ医の診察のみで治療が完結するケースもありますが、専門医による診察が必要だと診断された場合は、処方箋や紹介状を持って専門医や公立病院を受診。
処方薬や血液検査など各種検査は医師が必要とした場合に処方され、処方箋を持って、薬局で薬を購入したり、公立病院等に検査を受けに行ったりします。
公立病院はいつも混んでいるので、待ち時間が長い上に、検査結果が出るまで日数がかかるのが難点ですが、無料または少額で治療できるのがメリットです。
検査結果が出ると、結果を持ってかかりつけ医または専門医等を再診。
専門医から治療薬を処方された場合も、かかりつけ医を再診して処方箋を出してもらい、薬局で薬を購入します。
医薬品は無料のものと、一部自己負担が必要なものがあります。
自己負担額は薬の種類と患者の所得によって変わり、地域によっても違いがあります。
イタリア滞在中に病気や怪我をしたら?
海外旅行傷害保険の活用
イタリアに留学するには、就学ビザを申請する必要があります。
就学ビザ申請時に、イタリア大使館または領事館より海外旅行傷害保険(留学保険)の加入が求められます。
海外旅行傷害保険加入者はヘルプデスクなど医療機関の紹介サービスを利用すると、英語が話せる医療スタッフがいるプライベートクリニックを紹介してもらったり、治療費が高額でも保険でカバーされたりします。
なので、留学中はあえて SSN に加入する必要はないと思います。
歯科は保険適用外
イタリアでは歯科は SSN の対象外で、全てプライベートクリニックです。
歯科は日本では保険診療対象ですが、イタリアでは自費診療になるので、一般的に治療費は高額になることを事前に知っておきましょう。
渡航前に虫歯などの治療を済ませる人が多いのはそのためです。
緊急時は救急治療室を受診
SSN 加入者も非加入者も、緊急で重篤な病気や怪我の場合は、公立病院等の救急治療室、 Pronto Soccorso (プロント・ソッコルソ) を受診することができます。
救急車等も利用できます。
ただ、緊急でない病気や怪我での受診は、本当に救急医療が必要な患者の受診を遅らせることになりかねないため、安易な受診は控えましょう。
なお、救急受診も含めて医療機関では一般的に、イタリア語でのコミュニケーションが必要です。
イタリアの国民健康保険サービス(SSN)加入体験談
国民健康保険サービス SSN に加入
私自身はイタリア滞在当初は就学用滞在許可証を所持、その後就労用滞在許可証に切り替えました。
ある日、急病で慈善救急診療所を受診。
先生から「この病気に効く抗生物質は自費だとかなり高額ですが、 SSN に加入すれば無料になりますよ。」と、どこで手続きできるのかまで親切に教えてもらいました。
既にイタリアに住民登録していたので、その足で地域保健所(ASL)に行き、登録を済ませて診療所に戻り、即時発行された仮の保険証で診察料も薬代も無料で治療できました。
私が SSN に加入したのはこんな経緯で、今でも保険診療について教えてくださった先生には感謝しています。
これを機に、 SSN について周りのイタリア人の友人に詳しく教えてもらい、以後公的医療を利用するようになりました。
本来なら、就労用滞在許可証に切り替えた時点で SSN の加入手続きをして、いざという時に備えるべきだったのです。
備えあれば、憂いなし!
かかりつけ医の変更
SSN の手続きをした日は、病気で体調が悪く、とにかく救急で診ていただいた先生に処方箋を発行してもらうのが目的だったので、かかりつけ医を診療所の住所を頼りに適当に選んでしまいました。
それから健康状態は良好で、登録後かなり時間がたってから、初めてかかりつけ医に診てもらうことになりました。
イタリアの診療所は日本と違って、外観からは全くわからず、普通の建物の一室にあります。
登録したかかりつけ医の受診は予約の必要がなく、診療所には他に待っている患者もいなかったので、大丈夫なのか?と不安になりました。
診察は雑な感じで、対応もいまひとつ、とりあえず処方箋をもらって後にして、率直に病気の度にこの先生を受診するのは不安だと感じました。
元気になってから改めて ASL の窓口に行き、かかりつけ医を変更したいと願い出ました。
かかりつけ医は無料で変更可能です。
イタリア人は家族のかかりつけ医がいたり、友人知人から情報を得たりしやすいですが、外国人は同じエリアに知り合いがいないと、どの先生がいいのかわからない状況。
私自身、最初にとりあへず選んで失敗したので、2回目は職員さんにも意見を聞きながら慎重に選びました。
可能なら、事前に情報収集してから選択することをおすすめします。
信頼できるかかりつけ医との出会い
初診
初めてかかりつけ医を受診するのはそれなりにドキドキします。
次こそはいい先生に出会えますように!と期待半分、不安半分で、受診。
新しいかかりつけ医は予約制なのに、診療所のフロアは患者でいっぱいで、予約時間を大幅に過ぎて、ようやく診察室へ。
白衣ではなく、私服姿の笑顔の素敵な先生でした。
看護師は不在で、先生に症状を話すと丁寧に話を聞いてもらい、説明もわかりやすく、適切に対応してもらいました。
初回の受診でこの先生なら大丈夫と直感しました。
かかりつけ医は身近で頼れる存在
かかりつけ医制度は日本にはないシステムなので、最初はよくわからないまま診てもらっていましたが、あらゆる症状でかかりつけ医が窓口となり、さまざまな健康上の問題を相談できる、身近で頼りになる医師なのだと気づきました。
眼科や耳鼻科など、明らかに専門医に診てもらう必要がある場合も、まずはかかりつけ医を受診しなければいけません。
二度手間で面倒な側面もありますが、逆に言うと、健康状態を総合的に把握してもらうことができるのです。
先生ときちんとコミュニケーションをとり、何度も顔を合わせるうちに、自分に合った治療薬を処方してもらったり、健康上のさまざまな問題を相談できるようになります。
体調不良でかかりつけ医に通った時期、先生の言葉に励まされたり、救われたことがあり、感謝してもしきれない程お世話になりました。
体調が悪いと精神的に不安になったりもしますが、信頼できるかかりつけ医の存在はとても心強かったです。
イタリアの SSN は自分に合ったかかりつけ医を見つけられるかが鍵になると思います。
医師と患者と言っても、あくまで人と人との関係なので、相性があり、ある人にとっては名医でも、自分には合わないことやその逆もありえます。
私の場合は1度変更して良い先生に出会えました。
選択したかかりつけ医が合わなくても諦めず、制度を活用しましょう。
信頼できるかかりつけ医の存在は安心感に!
国が違えば、医療制度は異なります。
郷に入っては郷に従え、現地の医療制度の知識を得て、最初は不慣れでも慣れていくしかありません。
私は信頼できる先生のおかげで、病気やケガになったらまずはかかりつけ医に診てもらうというシステムに慣れ、先生とよい関係を築くうちに、イタリアで安心して医療を受けられるようになりました。
病気になったり、体調不良に見舞われたりすると、心細くなりがちですが、かかりつけ医の顔を見るだけで安心感を得られたこともありました。
イタリアで公的医療を受けるには、自分に合ったかかりつけ医を選ぶことが大切です。
今思えば、イタリアには人間味のある先生が多く、先生との距離が近く感じられました。
イタリアの制度と日本の制度はどちらが優れているかはわかりませんが、イタリアの医療制度はとても良心的で、経済的負担をさほど心配することなく、医療を受けられたように感じます。
かかりつけ医という自分の健康面を総合的にサポートしてくれる先生がいることで、医療を受けるハードルが低くなり、結果として早期治療に繋がります。
帰国後、体調が悪くてもどの医療機関を受診すればいいのかわからず、探すのは手間だし、初診は毎回不安だし、受診をためらった結果症状が悪化して、大事(おおごと)になったこともありました。
日本はイタリアと違って任意とはいえ、信頼できるかかりつけ医を見つけられたら、もっと安心して医療を受けられるようになり、いざという時に備えられると思うのです。