
初夏のイタリアの街はリンデンの甘い香りで満たされます。
リンデンはヨーロッパで昔から通りや広場、公園に植樹され、広く親しまれている樹木です。
観賞用としてだけでなく、繊維や材木、ハーブ、薬草、蜂蜜など、さまざまな用途で役立てられています。
日本ではあまり馴染みがありませんが、和名は西洋菩提樹。
リンデンについての豆知識と特徴、イタリアで常備していたリンデンのハーブティや蜂蜜の特徴などをまとめました。
初夏のイタリアの街で薫るリンデン

梅雨がないイタリア。
初夏にあたる6月から7月にかけて、リンデンの花が咲き、街が甘い香りに包まれます。
夜になると、香りはよりいっそう存在感を増し、リンデンが咲く辺り一帯を満たしてしまうほど濃密な芳香。
日本では馴染みが薄いですが、リンデンはヨーロッパでは古くから街路樹や公園樹として植えられ、広く親しまれています。
イタリアでも広場や公園に植えられ、身近な樹木です。
私が暮らしていたフィレンツェの家の近くにリンデンがあったので、甘い香りが漂ってくると、今年も夏が来た!と感じさせてくれました。
リンデンはヨーロッパで親しまれる樹木
リンデンの豆知識
分類: アオイ科シナノキ属
学名: Tilia
原産地:ヨーロッパ
開花期:6月~7月
初めてリンデンを知ったのはイタリアで暮らしてから。
甘い香りに誘われて、たどり着いたのは、大きなリンデンの木が並んでいる広場。
リンデンは大きく成長し、高さが30 mにもなる大樹です。
香りの正体はこのリンデンの花。
大樹に小さな可愛らしい花が鈴なりになって咲いていました。
リンデンはイタリア語では tiglio (ティーリョ)。
ヨーロッパ原産のリンデンは日本語で西洋菩提樹、またはセイヨウシナノキと呼ばれます。
私にとっては伊語でインプットされたせいか、どちらもピンときません。
菩提樹と聞くと、お釈迦様が悟りを開いた木が思い浮かびますが、それはインド菩提樹なので、リンデンとは別の樹木です。
ヨーロッパで親しまれる菩提樹
ヨーロッパではリンデンの歴史は古代ギリシャ、古代ローマ時代にまで遡ります。
中世ヨーロッパでは自由を象徴する木だったとか。
1647年に作られたドイツの首都ベルリンの Unter den Linden (ウンター・デン・リンデン)は、リンデンの並木道として有名です。
ちなみに、リンデンはチェコ共和国の国花。
イタリアでは、中欧程シンボル的な存在ではないとはいえ、広場や公園に広く植樹されています。
甘く爽やかな香りのリンデンの花

リンデンの花は6月から7月にかけて咲きます。
大樹を見上げると、薄い黄色の小花が鈴なりに咲いています。
下向きに咲いているので、下からレモンイエローの優しい色をした花がよく見え、とても可愛らしいです。
葉っぱはハート型をした柔らかな黄緑色。
初夏の明るい陽光を受け、小花も葉っぱもキラキラときらめきます。
強い香りが特徴で、辺り一帯が甘い香りに満たされるほど。
陽光を浴びたリンデンの木々の間を歩くと、可憐な花の甘く優しい香りで、心穏やかなリラックスした気持ちになります。
夜はよりいっそう甘い香りが強くなり、心地酔い。
誤字ではなく本当に酔ってしまうような芳香を放つのです。
千の用途を持つリンデン
リンデンは木や葉や花、蕾など全てが役立つスーパーツリーで、『千の用途を持つ木』と言われています。
リンデンは強く、葉や花が美しいため、特にドイツや中欧で街路樹や公園、広場の木として好んで植樹されました。
観賞用として、ヨーロッパの街を見守ってきたのです。
そして、木材は楽器や木工材、樹皮はロープ材や洋服の繊維、花はハーブや薬草などさまざまな用途に使われ、蜂蜜も採れます。
リンデンの心安らぐハーブティと個性的な蜂蜜
リンデンのハーブティ

リンデンはハーブとしても親しまれています。
花と苞葉(ほうよう)がハーブティーや香料として利用されます。
イタリアでよく淹れたリンデンのハーブティ。
淡い黄色のリンデンのハーブティを淹れると、独特の甘くて優しい香りと青い草のグリーンノートに包まれ、心が穏やかになり、リラックスできます。
リラックス効果というと、カモミールがよく知られていますが、私自身はリンデンとカモミールをそれぞれ購入して、気分に合わせてブレンドして飲むのがお気に入りでした。
花は甘く穏やかな香りが特徴で、リラックス効果があるため、寝る前に飲むお茶としても人気があります。
リンデンの甘い香りが心と体を癒し、心地良い眠りにいざなってくれます。
かぜの初期症状を緩和したり、体を温めたりする作用もあるので、特に寒い季節に重宝するハーブです。
リンデンの蜂蜜

リンデンの蜂蜜も人気があります。
イタリア語で蜂蜜は miele なので、miele di tiglio (ミエーレ・ディ・ティーリョ)。
ちなみに、日本の百花蜜のように複数の花から採れた蜂蜜は millefiori (ミッレ・フィオーリ)、 mille は千、 fiori は花。
複数の花から採れた蜂蜜は日本では百花蜜、イタリアでは千花蜜なのです。
百と千の違いがあって、なんだか面白い。
イタリアは単花蜜の種類がとても豊富です。
アカシアをはじめ、ローズマリー、タイム、ラベンダー、リンデン、レモン、みかん、リンゴ、イチゴノキ、栗など目移りする程色々な種類の蜂蜜があります。
花によって個性が違うので、色々試して自分好みの蜂蜜を見つけるのも楽しみでした。
日本よりも全体的に手ごろな価格なので、気軽に試せます。
リンデンの蜂蜜は千花蜜と比べて、黄色が強く、レモンイエローに近い色味です。
リンデン特有の甘い香りに青い草の香りが混ざり合い、爽やかな香りに癒やされます。
柔らかい甘味の中にスーッと爽やかな風が駆け抜けるような味わいで、後味すっきり、他にはない個性的な蜂蜜です。
そのまま食べたり、パンにつけたり、砂糖の代わりに紅茶やハーブティに入れたり、楽しみ方は色々。
リンデンのハーブティにリンデンの蜂蜜もおすすめです。
また、喉が痛いときはリンデンの蜂蜜がいいとイタリア人の友達に教えてもらい、のど飴代わりに食べることも。
体にも心にも良い蜂蜜です。
初夏のイタリアの思い出はリンデンの香りと共に
日本の6月から7月は梅雨のジメジメとした印象が強いですが、イタリアでは初夏の日差しが降り注ぎます。
個人的には最も好きな季節です。
リンデンはこの時期に花を咲かせ、うっとりするような芳香を放ちます。
私にとってリンデンはイタリアで初めて出会い、甘い香りなのに、甘ったるくなく、甘く爽やかな空気を運んでくれる、大好きな木。
毎年この時期なると、甘い香りで迎えてくれるリンデン。
リンデンの香りに包まれると、夏が来たというワクワク感を味わい、気持ちが安らぎ、とても心地良い気分になります。
花の命は短く、甘い香りとともに過ごした貴重な日々は大切な記憶です。
花が咲かない時期は、常備するリンデンのハーブティや蜂蜜が癒やしてくれました。
こうしてリンデンの香りを思い出しながら、ブログを書いていると、イタリアでのさまざまな思い出が頭を駆け巡ります。
そして、またあの香りに溺れたいと思うのです。