イタリアの家の鍵は厳重です。
自分のアパートに入るには、建物のドアと住戸(じゅうこ)のドア、少なくとも2つのドアの鍵を開ける必要があります。
ドアは全てオートロック、しかも二重鍵。
外出時には、日本の鍵よりも大きくて、ずっしりと重い鍵を複数持ち歩きます。
イタリアの家のドアの鍵について、アパートの2つのドア、鍵の開け方や実際に体験した鍵のトラブルなどをまとめました。
イタリアの家のドアと鍵
イタリアの住居
イタリアの住居は一軒家と集合住宅があります。
郊外には庭付きの一軒家が多く建っていますが、街中は圧倒的に集合住宅が多いです。
集合住宅はイタリア語で appartamento (アッパルタメント)と言い、そのままアパートと訳しますが、日本でいうアパートよりもマンションに近いイメージ。
また、集合住宅の1つの住戸(じゅうこ)のこともアッパルタメントと言います。
建物の規模は大小様々で、各フロアに1アパート(戸)のみの小さな建物や、各フロアにいくつもアパートがある迷路のように広い建物もあります。
一般的に、ひとつの建物の中に複数の家族や個人が暮らし、マイホームだったり、賃貸だったり、住戸によって異なります。
石造りの建物は築年数が長く、外壁や扉、雨戸などの外観は街によって規制があるため、全体的に趣のある落ち着いた町並みです。
歴史地区では、築何百年の建物も珍しくなく、外壁が厚く、温度変化が少ないため、夏涼しく冬温かい造りになっています。
建物は古くても、内装はリフォームされるため、住みやすい空間が広がります。
イタリアの建物の階数の数え方
イタリアの建物の階数の数え方はヨーロッパ式で日本とは異なります。
地面と同じ高さの地上階を piano terra (ピアノ・テッラ)と呼び、その上が1階 primo piano (プリモ・ピアノ)、さらに上が2階 secondo piano (セコンド・ピアノ)となります。
つまり、イタリアの1階は日本でいう2階、2階は3階になります。
イタリアの家のドア
イタリアの街中には通りに沿って大小様々な建物が並んでいます。
通りには必ず名前が付いていて、建物毎に割り振られた番地がドアの右上辺りに表示されています。
イタリア語でドアは porta (ポルタ)。
一方、道路に面した建物全体のドアは大きなものを表すために名詞に加えられる指大辞 -one をつけて、 portone (ポルトーネ)と言います。
初めて家を訪れる場合も、通りの名前と番地がわかれば、このドアの前までは辿り着けます。
ドアの傍に住戸分のチャイムがあり、それぞれ名前が書かれています。
このチャイムは campanello (カンパネッロ)と呼ばれ、鳴らすとインターフォンで住人と話すことができます。
家の中から建物のドアの鍵を解錠できるので、住人に階数を教えてもらい、解錠されたらドアを押して中へ入ります。
イタリアのドアは全て内開き。
建物内は暗く、通常はドアを解錠する時に階段の電気を点けますが、一定の時間が経てば自動で消える仕組みです。
階段を上っている途中でいきなり電気が消えると真っ暗になるので、目的地の階数が高い場合は、踊り場にある電気のスイッチを押して、明かりを維持しながら上ります。
ちなみに、郵便受けは建物のドアの内側にあります。
郵便配達人は建物毎にチャイムを鳴らして、誰かにドアを開けてもらって郵便受けに入れるので、配達時は建物中のチャイムがランダムに鳴り響きます。
家の鍵は最低2本
イタリアでアパートを借りると、鍵を2本以上手渡されます。
建物のドア (portone) の鍵と住戸 (porta) の鍵。
なかには、1つのアパートがさらに分割され、複数の独立したアパートになっているケースもあり、その場合は自分の家に入るまでにドアの鍵が3本必要です。
イタリアの家の鍵は一般的に日本の鍵よりもサイズが大きく、長さが10 cm以上あったり、ずっしり重くて、頑丈、造りも違います。
建物内にある郵便受けにも鍵をかけるので、郵便受けの鍵も必要。
そんなわけで、イタリアではみんなキーホルダーやキーリングにたくさん鍵をつけて、ジャラジャラと持ち歩いています。
鍵は嵩張るし、重いし、荷物になって困りますが、外出時には肌身離さず持ち歩く必要があるのです。
イタリアの家の鍵は日本の鍵と開け方が違う
鍵を開ける練習!?
初めてのイタリア留学では、語学学校の紹介でアパートを借りました。
学校が始まる何日か前に渡伊、数日はホテルに泊まって観光を楽しみました。
入居日の昼間、スーツケースを押してアパートに行き、ドキドキしながらインターフォンを鳴らすと、カチャッと音がして、どっしりと大きなドアが開きました。
エレベータがなかったので、階段で荷物を運び上げると、イタリア人の男女2人に迎えられました。
そのうちの女性が学校と契約して、部屋を提供していたのです。
2人共大学生ながら同世代、友達になれたらいいなと期待を持ったのを覚えています。
アパートはシングルルーム2部屋、ダブルルーム1部屋、キッチンとバスルームなどの共有スペースという構成。
早速、女性が鍵を2本手渡しながら、「まずは彼と一緒に鍵を開ける練習をして来て!」
鍵を開ける練習?
なんだかよくわからないけれど、言われるがまま下まで降りて、建物のドアの鍵穴に小さい方の鍵を差しました。
でも、鍵が回りません。
彼は同じ鍵で意図も簡単に開けます。
英語で教えてもらいながら、何度か試すうちに、日本の鍵のようにぐるぐる回すのではなく、ドアを少し引きながら鍵穴に鍵を差し込んで、ひっかけるようにして鍵を動かすと、噛み合うポイントがあることがわかりました。
コツがわかって開けられた時は感動!
喜んだのもつかの間、住戸のドアの鍵はさらに難易度が高く、長くて見たこともない形状で鍵穴に入れても回りません。
見本をみせてもらったり、ドアを開けた状態で試したり、何度も繰り返してやっと開けられるようになりました。
彼女によると、これまで同居した日本人留学生はみんな鍵が開けられなかったのだとか。
それで、最初に鍵を開ける練習をしようと思いついたそうです。
イタリアでいきなり受けた鍵の洗礼!
彼女のおかげで、何度かもたついたことはあっても、段々慣れてきて、このアパートで鍵が開けられないことはなかったです。
ちなみに、さまざまな国の留学生と暮らす中、ヨーロッパ圏内の学生もアメリカ人、メキシコ人もみんなスムーズに鍵を開けていたので、やっぱり日本人ならでは問題のようです。
厳重なイタリアの鍵
イタリアの鍵はオートロック、しかも二重鍵。
ドアが閉まると自動的にロックがかかりますが、外出時はそれだけでは不十分。
外側から鍵を回して二重に締めます。
帰宅時も内側から反対側に鍵を回して施錠します。
アパートによっては、追加で内側からロックがかけられるようになっています。
日本でいうドアチェーンのようなロックで、これをかけると鍵を持っていても外からは開けられません。
最初に住んだアパートでは、イタリア人女性が全員の在宅を確認した上でたまにかけていましたが、ある夜、大変な目に遭いました。
当時はイタリア人女性と私、日本人学生1人で、イタリア人は実家に帰省、私は深夜に帰宅。
鍵を開けて入ろうとしたら、なんと内側からロックがかかっていて、閉め出されてしまったのです!
チャイムを鳴らしても、電話をかけても全く応答はなく、5分過ぎ、10分過ぎ、泣きそうになりました。
何度も何度も電話をかけて30分以上過ぎた頃、ようやく日本人ルームメイトが気づいて、家に入ることができました。
寒かったのと、心細かったのと、わざとではないとしてもなぜ在宅しているか確認しないでロックをかけたのか理解できずに唖然とした記憶があります。
外出時に鍵は必ず携帯
イタリアのドアはオートロックなので、ドアがガチャンと閉まると自動的にロックされ、鍵を持たずに外に出てしまうと家に入れません。
ルームシェアなら、インターフォンを鳴らして誰かが開けてくれれば大丈夫ですが、1人暮らしだと大変なことになります。
なので、外出時は絶対に鍵を持って出るのを忘れてはいけません。
宅急便の受取でも、一瞬でも外に出た時にドアが閉まると入れなくなるので油断禁物。
私が1人暮らしをしていた時の対策として、家に入って内側から鍵をかけた後、在宅中はそのまま鍵穴に鍵を差した状態にしていました。
これなら絶対に鍵を持って出るのを忘れません!
鍵のトラブル体験談
ドアが風で閉まり、消防士出動
1人暮らしのアパートに母が泊まりに来ました。
ある日、近所で用事があり、帰りにインターフォンを鳴らして、母に解錠してもらう練習をしようと、鍵を持たずに出かけようとしたら、母が見送りに出てきて、風でドアがバタン!
一瞬の出来事でした。
何が起こったのかすぐにわからず、状況がわかるまで呆然。
2人とも家の外で、鍵は家の中。
携帯電話を持っていたのが不幸中の幸い。
大家はバカンスで不在のため合鍵はなく、イタリア人の知り合いや滞在歴の長い日本人の友達に相談して、ドアの前でない知恵を絞りました。
イタリアでは緊急事態に限って、消防士が対応してくれます。
大事(おおごと)にしたくなかったものの、背に腹は代えられず、最後は消防隊に助けを求めることに。
消防士は vigile del fuoco (ヴィジレ・デル・フオコ)、または pompiere (ポンピエレ)。
電話をかけてしばらくすると、鍵開け隊がかけつけてくれました。
隊長からドアが閉まった時の状況について質問があり、オートロックで閉まっただけだと説明。
鍵をしっかりかけてしまった場合は大変なことになるようですが、ただオートロックで閉まっただけなら、なんとかなりそうとのこと。
どうやって開けはるんやろ?
固唾(かたず)を呑んで見守っていると、屈強な消防士さん達が小道具を使ったり、力技でドアを押したりすること数10分。
まるでマジックのようにドアが開きました!
ドアが開いた瞬間、母も私も狐につままれたようにぽかんとしていたように思います。
消防隊員も全員、やった!という歓喜の渦に包まれました。
隊長に身分証明書やアパートの賃貸契約書の提示を求められ、事務的な手続きを終え、皆さんにお礼を述べ、消防車を見送りました。
大騒動になりましたが、ドアを壊さず、鍵が開いて本当に助かりました。
ただ、どんな状況であれ、外に出る時は必ず鍵を携帯するべきだったと改めて痛感、猛省しました。
入居日に住戸のドアが開かない
イタリアに10年以上暮らして、鍵の扱いにも慣れていたはずなのに、またもやトラブル発生。
忘れもしない、アパートの入居日でした。
前のアパートから新居まで歩いて5分程の距離だったので、ベッドなどの家具は既に運び入れ、引っ越し当日は新居の同居人がシチリアに帰省で不在のため、事前に預かっていた鍵を使って入居することに。
大型のスーツケースやキャリーバッグなどを含めて荷物を運び込み、ひとまず建物のドアを開け、イタリア式の3階まで階段で少しずつ荷物を上げていきます。
やっとたどり着いた新居のドアに長い鍵を差し込むと、鍵が回りません。
何度トライしてもビクともしない。
やむを得ず緊急の場合に教えてもらっていたルームメイトの携帯に電話するも繋がらず、家に入れないまま荷物と一緒に途方に暮れました。
何度も何度も試すけれど、全く鍵が開く気配なし。
たまたま通りがかった上階に住むイタリア人女性に鍵を渡して開けてもらおうと思いついて、頼んでみたものの、なんと彼女でも開けられなかったのです!
身動きがとれず、焦りと疲労が蓄積していきます。
その後、先程の女性に頼んで鍵が開くまで荷物を預かってもらい、いったん新居の建物を出て他の用事をこなしていると、留守電を聞いたルームメイトから連絡があり、友人が鍵を開けに来てくれるという知らせが。
数時間後、その友人が苦戦しながらもなんとか解錠に成功。
「明らかに鍵の噛み合いが悪いので、多少不用心だけれど、当面は外出時も鍵を回さないほうがいいよ。」とアドバイスをくれ、ルームメイトにも状況を説明してくれました。
午前中に終えるはずの引っ越しが、鍵のトラブルで入居できたのは夕方、長ーい1日となりました。
イタリアの鍵にはご用心
鍵に関わるトラブルはイタリアに住み始めた頃だけでなく、長く住んでいても起こりえます。
特に、初めて使う鍵や転居後新しい鍵に慣れるまでの間、鍵自体が古い場合は要注意。
私の体験したトラブルも入居直後と入居日に起こりました。
1人暮らしの場合は、郵便の受取りなどでも家のドアを開ける時は必ず手に鍵を持つのを忘れないようにしましょう。
風でバタンと閉まることだってあります!
私自身何度かトラブルに見舞われましたが、いつも周りの人に助けられてなんとかなりました。
友人や親しい人だけでなく、初対面の人に助けてもらったことも何度もあります。
鍵トラブルは精神的にかなり追い詰められるのでないにこしたことがありません。
常に細心の注意を払うのはもちろんですが、それでも万が一トラブルに見舞われ、一人で解決できなければ、周りの人に助けを求めてもいいと思います。
本当に困った時は、誰かが助けてくれる
振り返ると、イタリア生活はそんな体験の積み重ねで、多くの人に助けられてやってこれたのだとひしひしと感じます。