ピッツァは世界中で愛される、パスタと並んでイタリアを代表する料理です。
イタリアのナポリで誕生したピッツァは日本でも人気が定着し、今や本格派ピッツァを出す店も増えました。
それでも、本場イタリアのピッツァの楽しみかたとは違いがあります。
イタリアのピッツァ文化と日本のピザ文化の違いや、本場イタリアのピッツェリアに行くなら知っておきたいこと、ナポリ風とローマ風の違い、ピッツァができるまで、ピッツァ職人から教わった美味しいピッツェリアを見極めるコツなどを紹介します。
イタリア人のピッツァの楽しみかた
ピッツァにまつわるイタリア語
世界中で愛されるピッツァ!
日本では『ピザ』で定着していますが、イタリアでは『ピッツァ』 (pizza) です。
釜戸で焼き上げたピッツァを専門に提供する店はピッツェリア (pizzeria) 。
世界最古のピッツェリアとして知られる、ナポリの L’antica Pizzeria Porta L’alba (ランティーカ・ピッツェリア・ポルタ・ラルバ)は1738年に路上販売で創業、1830年にピッツェリアとしてオープン、現在も伝統のピッツァを提供しています。
そして、ピッツァ職人はピッツァイオーロ (pizzaiolo) 。
ピッツァイオーロの魔法の手から美味しいピッツァが生まれます。
明るい声が響くイタリアのピッツェリア
イタリア人は夜の食事は着飾って出かける風習がありますが、ピッツェリアはおしゃれをした人からカジュアルな服装の人までさまざま。
子供から年配の方まで幅広い世代が美味しいピッツァを食べに集います。
気心の知れた友人同士の集まりや誕生日などを祝うグループが多いのもピッツェリアの特徴。
店内はいつもワイワイガヤガヤ、明るい声が響きます。
ピッツァができるのを待つ間、前菜を頼んだり、フライドポテトをつまんだりすることもありますが、ピッツァと飲み物だけという人も多いです。
ピッツァは炭酸飲料との相性が良く、ビール、またはアルコールが苦手な人はコーラ等を選ぶのが一般的。
イタリアで外食すると、前菜からプリモ、セコンド、ドルチェまで時間をかけて食事を楽しみますが、ピッツェリアではあくまで焼きたてのピッツァがお目当て。
ピッツェリアは手軽でリーゾナブルに外食できる、イタリア人の憩いの場でもあるのです。
イタリアのピッツァ文化
本場イタリアのピッツァと日本のピザの違い
日本にも本格的なナポリ風のピッツェリアもありますが、本場イタリアとは違いもあります。
イタリアのピッツァの特徴は、
- 基本は1人1枚注文する
- カットしないでサーブされる
- 夜がメイン
基本は1人1枚注文する
イタリアでは日本のようにピッツァを複数人で取り分けて食べるという習慣がないため、ピッツァは1人につき1枚注文するのが基本です。
日本人がお好み焼きを食べに行くような感覚です。
目の前に運ばれるピッツァは目を見張る大きさですが、慣れるとペロッと食べられます。
食欲旺盛なイタリア人男性だとパスタの後にピッツァを食べる人やピッツァを2枚軽く平らげる人も珍しくありません!
先日日本でピッツェリアに2人で行き、イタリア流に1人1枚注文すると、まず1枚テーブルの真ん中に運ばれ、小さな取り皿を置いてくれました。
食べ終わると、次のピザがサーブされ、同じようにテーブルの真ん中に。
2人でシェアすると最後まで温かいピッツァが食べられるのは嬉しいですが、小さなお皿にピッツァを取って食べるのは少し違和感がありました。
イタリアでは1人1枚ずつ食べるのが普通なので、大きく違う点です。
カットしないでサーブされる
日本ではカットしてサーブされることが多いですが、イタリアでは釜から取り出した熱々のピッツァをお皿に載せて、そのままサーブされます。
釜からテーブルに直行!
ナイフとフォークを使って自分で切り分けて食べます。
適度な大きさに切った後は手で食べるのもOKです。
夜がメイン
本格的なピッツェリアは夜のみ営業する店が多いのも特徴です。
人気店では、特に週末は予約をしないと店の外で順番を待つ人でいっぱいです。
旅先で行きたいピッツェリアがあれば、予め営業時間を確認しておくと無難です。
もっちりナポリ風とクリスピーなローマ風
ナポリ風ピッツァとローマ風ピッツァの違い
イタリアには地方によってさまざまなピッツァがありますが、大きく分けると2つのタイプがあります。
ナポリ風 (アルタ) | ローマ風 (バッサ) | |
---|---|---|
厚さ | 耳が厚い | 薄い |
食感 | もちもち | クリスピー |
もっちり、耳が厚いナポリ風ピッツァ
ナポリ風ピッツァはイタリア語でピッツァ・ナポレターナ (pizza napoletana) 、ピッツァの発祥地ナポリ伝統の生地の周りが厚みのある、モチッとした食感が特徴です。
イタリア語で『高い』を意味するピッツァ・アルタ (pizza alta) とも呼ばれ、生地にボリュームがあり、食べ応えがあります。
熟練のピッツァイオーロが手掛けたナポリ風ピッツァは生地だけ食べても味わい深く、耳も残さずきれいに食べきれます。
クリスピーで薄いローマ風ピッツァ
もうひとつは生地が薄くてパリッとしたローマ風ピッツァ、イタリア語でピッツァ・ロマーナ (pizza romana) と言います。
イタリア語で『低い』を意味するピッツァ・バッサ (pizza bassa) とも呼ばれます。
生地は薄くクリスピーで軽い食感、トッピングされる具材の味を引き立ててくれます。
ナポリ派とローマ派、好みは人それぞれ
ナポリ以外の地域では、もともとローマ風ピッツァが主流でしたが、ナポリ風ピッツァの人気が広がり、ナポリ以外でも本格的なナポリ風ピッツァを食べられるピッツェリアが各地にあります。
例えば、フィレンツェではもともとクリスピーなピッツァが一般的で、ナポリ出身のピッツァイオーロが初めて『アルタ』を作った当初は、食に保守的なフィレンツェの人々にはなかなか受け入れられなかったようですが、時を経て『アルタ』の人気が定着しました。
ナポリ風とローマ風、それぞれに良さがあり、人によって好みが分かれます。
ちなみに私自身はナポリ風ピッツァに目がありません!
ピッツェリアの一日~ピッツァができるまで
フィレンツェのピッツェリアで取材したことがあります。
実際に作る様子から、随所にこだわりや職人技が見て取れました。
- 生地の準備
- 釜の火の準備
- 生地の形成とトッピング
- 釜の中で焼く
生地の準備
早朝、生地を準備します。
材料は強力粉、水、塩、イースト菌。
これだけです。
その日の天候やピッツァイオーロの気分に合わせて配分は微妙に変えるそう。
また、ピッツァ・アルタには薄力粉を少し加えます。
生地ができると1人分ずつ丸めて発酵させます。
生地の量は『アルタ』250g、『バッサ』120g、倍以上の差があります。
トマトソースをはじめピッツァのトッピングに使われる食材も毎日用意、使いやすいように小分けにしておきます。
釜の火の準備
開店の1時間前に、薪を使って釜に火をつけます。
生地の形成とトッピング
朝から寝かせた生地はふっくらお餅のようにつやつやしています。
最短でも10~12時間、ゆっくり時間をかけて発酵させるのが大事だそう。
ピッツァの注文が入る度に、ピッツァイオーロが大理石の台の上で、ひとつずつ手早く形成します。
『バッサ』は麺棒を使って伸ばし、『アルタ』は手だけで形を整えます。
あっという間にピッツァの形になり、あまりにも早いので、思わず「すごい!」と言葉が漏れました。
そして成形された生地の上にトマトソースや具材をトッピングします。
仕上げに上からオリーブオイルをかけます。
釜の中で焼く
大きなシャベルのようなピザピールを使って、ピッツァを1枚ずつ釜の中に投入。
調理時間は約2分。
みるみるうちにこんがりと色づきます。
『アルタ』は周りがふっくらと膨らんできます(写真奥2枚)。
釜の中の温度は350~400度にもなるので、焼いている間ピッツァが焦げ付かないように、こまめにピッツァを回して位置を変えます。
いい色に焼き上がったら出来上がり!
美味しい店の見極めはマリナーラで
取材中、ある店のピッツァが美味しいかどうか見極めるには、一番シンプルなマリナーラを頼んでみるといいよと教わりました。
ピッツァ・マリナーラ (pizza marinara) はトマトソース、オレガノ、にんにくしか入っていないからこそ、ストレートに味が伝わるのです。
そういえば、ピッツァの形を作るとき、ピッツァイオーロが「ナポリ風のマリナーラは生地を味わってもらうので、少し生地を足してよりボリュームをだすんだ。これは親父から習ってね。今じゃあ、そんなことやっているピッツァイオーロはいないかもしれないけど。」と話してくれました。
「シンプルだからこそ難しいんだ」とも。
シンプルなピッツァにこそ、ピッツァイオーロのこだわりと職人技が凝縮されているのです!
ピッツァは熱いうちに召し上がれ
日本のピザには日本人ならではの心遣い
本場イタリアのピッツァについて紹介しましたが、イタリア流と日本流、それぞれに良さがあります。
そして、イタリアでも日本でもピッツァイオーロは心を込めて作ったピッツァを最高の状態で味わってもらいたいという気持ちに違いはないはず。
日本のピッツェリアでは、ピザをシェアしやすいように予めカットしたり、1枚ずつ順番にサーブしたり、日本人らしい細やかな心遣いが感じられます。
いろんな味を試したい、シェアが好きな国民性に合わせたサービスは、日本で育くまれたピザ文化と言えるでしょう。
イタリアのピッツァを体験してみよう
日本のピザに慣れていると、イタリアのピッツェリアでは戸惑うかもしれません。
私が日本のピッツェリアで違和感を覚えたように。
それでもイタリアに行ったら、ぜひイタリア人のピッツァの楽しみかたを体験してみてください。
郷に入れば郷に従え
いつものピザの味わいとは違う発見があるはずです。
イタリアのピッツェリアには、人々の明るい笑い声が飛び交っています。
何度も通っていると、ハート型のピッツァが出て来たこともありました。
茶目っ気のあるイタリア人ピッツァイオーロならではの演出です。
数え切れないほどピッツァを食べに行きましたが、美味しいピッツァと共に一緒に過ごした友達との楽しい時間が記憶に残っています。
最後に、ピッツァは熱いうちに召し上がれ!
ピッツァイオーロがお客さんに美味しいピッツァを食べてもらいたいという想いをこめて作ったピッツァは釜からテーブルにすばやく運ばれます。
Buon’appetito (ブォナッペティート)!