イタリアは世界第2位のぶどうの生産国。
生食用はもちろん、ワイン醸造用のぶどうも栽培されています。
フィレンツェには、ぶどうの収穫時期に当たる9月になると登場するお菓子があります。
小粒なワイン用の黒ぶどうをふんだんに使ったぶどうのスキアッチャータは、この時期、この場所でしか味わえません。
イタリアのぶどうの豆知識と、トスカーナ地方の秋期限定ぶどうのスキアッチャータはどんなお菓子なのか、特徴や味について紹介します。
イタリアの葡萄の豆知識
イタリアのぶどう
夏から秋はぶどうがおいしい季節。
日本では、昔から親しまれる小粒のデラウェア、高級感のある大粒のマスカットや巨峰をはじめ、品種改良により毎年のように新しい品種が誕生し、生食用ぶどうの種類が豊富です。
イタリアでもぶどうは人気のあるフルーツでとても美味しいですが、他の果物のように高級感はなく、日常的に食後のフルーツとして食卓にのぼります。
日本のぶどうはフルーツトレーに入って並んでいるのが一般的。
一方、イタリアの八百屋やスーパーでは野菜と同様に無造作に山積みされ、量り売りされます。
日本のように品種名で選ぶというより、色別に分けられているだけです。
ちなみに、日本で黄緑系と言われるぶどうは、イタリアでは白色と呼ばれます。
ぶどうは uva (ウヴァ)、白は bianca (ビアンカ)なので、uva bianca。
赤や黒のぶどうは、それぞれ、uva rossa (ウヴァ・ロッサ)、uva nera (ウヴァ・ネーラ)です。
イタリアは世界第2位のぶどう生産国
イタリアは長年ぶどうの生産量が世界一でした。
食用ぶどうは、主にプーリア州やシチリア州など南イタリアで栽培されています。
ぶどうの上位5ヶ国の生産量(百万トン)比較
国 | 2001年 | 2021年 |
---|---|---|
中 国 | 3.3 | 11.2 |
イタリア | 8.9 | 8.1 |
スペイン | 6.5 | 6.1 |
アメリカ | 7.0 | 5.5 |
フランス | 7.8 | 5.1 |
2010年にイタリアから中国にトップの座が移り、以後中国が世界最大の生産国、イタリアは第2位です。
中国では主に食用のぶどうが生産されていますが、イタリアでは食用だけでなく、ワイン用の葡萄も生産されています。
ぶどう生産量トップ5のうち、イタリア、スペイン、フランスはワイン用のぶどうの産地でもあります。
秋期限定&地域限定ぶどうのスキアッチャータ
ぶどうのスキアッチャータとは?
イタリアはフランスに次ぐ、ワインの生産量を誇ります。
早い地域では8月下旬から、9月、10月にかけてワイン醸造用のぶどうの収穫時期を迎えます。
フィレンツェ近郊では、この時期限定のお菓子 schiacciata con l’uva (スキアッチャータ・コン・ルヴァ)が登場!
日本語に訳すと、ぶどうのスキアッチャータです。
スキアッチャータとは?
スキアッチャータとは、トスカーナ地方の平たいパンのこと。
イタリア語でスキアッチャータは、『押しつぶす』という意味の動詞 schiacciare (スキアッチャーレ)の受動態で、『押しつぶされた』と言う意味です。
生地を成形する際に、平らに焼き上がるように指で押してくぼみをつけることから由来しています。
小麦粉、イースト菌、水、オリーブオイル、塩などシンプルな材料で作られていて、ローズマリーやオリーブが練り込まれたものもあります。
表面はカリッと香ばしく、中はふんわり柔らかい生地で、塩味がしっかりきいています。
パンと同じようにそのまま食べたり、チーズや野菜、ハムなどを挟んでパニーノ(サンドイッチ)にしたりします。
トスカーナ州では schiacciata (スキアッチャータ)と呼ばれますが、イタリアでは一般的に focaccia (フォカッチャ)と言います。
なので、フォカッチャという名前のほうが馴染みがあるかもしれません。
ぶどうのスキアッチャータの特徴
ぶどうのスキアッチャータはお菓子
ぶどうのスキアッチャータは同じスキアッチャータと言っても、食事パンではなく、甘いお菓子です。
いわゆる菓子パンのようなイメージです。
イタリア広しと言えど、このぶどうのスキアッチャータが味わえるのは、トスカーナ州のフィレンツェ近郊と南部マレンマ地方のグロッセートのみ。
かつて、フィレンツェ近郊の農家で収穫祭用に作られたというこのお菓子は現在もこの時期にしか味わえません。
パン生地とオリーブオイル、黒ぶどう、砂糖から作られています。
黒ぶどうは、もともとこの地方の伝統的なワイン用品種カナイオーロが使われていました。
黒ぶどうがこれでもかと言うほどふんだんに使われ、スキアッチャータの上にトッピングされるだけでなく、生地の間にもたっぷりと挟まれています。
ぶどうのスキアッチャータはどんな味?
ぶどうのスキアッチャータはパン屋やパティスリーなどで作られます。
カットして並んでいることもありますが、小売店ではたいてい、大きなスキアッチャータがドンと鎮座しているので、自分の欲しい分だけ切り分けてもらって量り売りです。
一口かじると、ぶどうの果汁がジュワーと口いっぱいに広がり、トッピングされたぶどうからは香ばしさも味わえます。
トローリとろけるように甘い小さなぶどう粒の中に、カリッと種が入っているのが特徴。
イタリアのぶどうは皮が薄く、種がしっかり入っていますが、イタリア人は皮をむかずに種もそのまま食べます。
私はそれに慣れず、皮をむいたり、種を出したりしていると、ただでさえ食べるのが遅いのに、さらに食べるペースが遅くなり、恥ずかしく感じることもありました。
それでも、このぶどうのスキアッチャータは種が入っていても、カリッと焼き上がっているので、香ばしく美味しく食べられます。
色々あるぶどうのスキアッチャータ
ぶどうのスキアッチャータは店によって味が違うので、食べ比べてみるのも楽しいです。
実際、ぶどうのスキアッチャータがある時期は、毎年あちこち店を回って食べ歩きました。
近年、食用ぶどうと同じように、種なしぶどうのスキアッチャータも出回っています。
イベントで試食したスポンジ生地のぶどうのスキアッチャータは、一口サイズに切り分けられ、素朴な伝統の味とは一味違って、優しく上品なドルチェに仕上がっていました。
フィレンツェの秋の味覚ぶどうのスキアッチャータ!
私はぶどうのスキアッチャータが大好きで、収穫時期が近づくと、そろそろぶどうのスキアッチャータが出るかなと、どこかそわそわしていました。
ぶどうの収穫時期になると、フィレンツェのパン屋や菓子屋の前に、
『葡萄のスキアッチャータあります!』
と書かれた紙が貼ってあります。
知名度は高くないけれど、秋期限定、地域限定のぶどうのスキアッチャータはレア感満載のフィレンツェの銘菓だと思います。
この時期、ここでしか食べられないお菓子なのです!
1年ぶりに食べるぶどうのスキアッチャータはいつもどこか懐かしく、ぶどうがぎっしり詰まった甘くて香ばしいおやつに頬がほころびます。
秋にフィレンツェを訪れる機会があれば、ぜひ食べてみてください。
ぶどう好きにはたまらない、素朴で庶民的なぶどうのスキアッチャータでフィレンツェの秋の味覚を楽しみましょう!